障害者治療の真髄は待つこと

 普段はあまり治療に関しては書かないのですが気分的に書いてみました。

 脳梗塞後遺症や重度脳性麻痺、進行性神経疾患などの難病を治療するときに最も大切な事の一つ、それは“待つ”ということです。

 重度障害者は要介助者、それを介助するのは介助者。往々にして介助者が全て介助することで要介助者の主体性が失われてしまうという事実が存在します。

 その事実の積み重ねは、知らず知らずのうちに自分で動こうという意志すらも無意識的に希薄になってしまうことが最も恐ろしいことです。

 障害者が動けないというのは、サポートされ続けるという事実の積み重ねによって生まれる動けないという潜在意識下のブレーキである要素がある場合が非常に多く、単に身体的な問題だけではないということでもあります。

 そうなってしまった患者さんを治療する場合は、待つことと根気が必要です。

「寝がえりしてみましょうか?」とこちらが問いかけて、寝返りができなくても寝返りをしようと試みる場合はまだマシな方です。主体性が欠落してしまうと、寝返りをしようともしなくなります。

 そういった場合は、寝返りをしようとピクッと身体が動き出すまで徹底的に待ちます。相手もこちらがやってくれるのを待っているわけですが、そこが根気の勝負です。

 動かないところから動かそうとするところ、つまり0から1の世界、無から有の世界です。1から2の意味と、この0から1の意味は圧倒的に違います。

 待つのも治療のうち、待っているうちに治療が終わってしまってもそれはそれでよし。

 今のは、極端な例でしたが、それ以外にも何でも提供しすぎるという問題も存在します。何にしても、専門家は親切です。

 その親切さが患者さんの回復を遅らせている事も多々あります。

・何でも説明してしまう。
・答えを与えてしまう。
・良いか悪いかをこちらで判断してしまう。

 私の治療は、

・患者さんに考えてもらい自分の意見を言ってもらう。
・答えは自分自身で考えて、その仮説と根拠を述べてもらい、検証して確認する。
・良いか悪いかの最終判断は患者さん本人に決めてもらう。

 私の仕事は、良い質問をするということ。

 そのような治療スタイルにすると患者さんの主体性向上と共に、回復スピードが飛躍的に速くなります。

 もちろんこれは一応にやる気のある患者さんにだけ適応ですが・・・そもそも私は人の人生の邪魔をしたくありませんので、やる気がないのであればその気持ちを尊重するだけです。例え、本音は何とかしたくて、勇気付けて欲しいという場合でも意志表示をしない場合は容赦なく放っておきます・・・

 私達の仕事は知らず知らずに患者さんの主体性を奪う可能性があるということを重々認識していないと、大変な事態を引き起こします。

 だから治療は本当に難しいぜよ。

 情報提供:体軸法 渋谷鍼灸理学治療室 森田敦史